【試読】とつげき隣のヒトハコさん

 一箱古本市や貸し棚書店など、書店を構えなくても個人的に本を売る活動ができるのをご存じだろうか?
 この「とつげき隣のヒトハコさん」なる企画は、そのような本を売る場を使って活動する人へのインタビュー企画である。noteにて記事公開していたのだが、文学フリマ大阪にあわせてインタビュー内容の一部を抜粋し、再編集した本を作成した。

 私自身も2018年頃から一箱古本市に参加し始め、貸し棚書店の存在も知るようになった。現在は大阪・文の里商店街の中にある「みつばち古書部」の棚をお借りして出店を続けている。(奈良にある無人書店「ふうせんかずら」にも出店していたが、2021年末をもって撤退した)

 参加して感じたのは、自分が持って行った本が売れる楽しいということだけでなく、そこにはさまざまな出店者がいることだ。年齢も職業も読書歴も違う。でも、それぞれに売りたい本を持ってきて、自分なりのアプローチをしている。本にもさまざまあり、本との関わり方にも個性がある。
 そんな面白さを知るにつれ、個性的な出店者の方々を「ヒトハコさん」と称してインタビューしてみてはどうかと思いついた。ぜひ、魅力的な「ヒトハコさん」たちのエピソードを楽しんでもらいたい。

  なお、冊子化にあたりnoteで既に公開している内容と全く同じでは面白くないので、それぞれ本書用に書き直している。
 noteで公開している記事では、オーソドックスなインタビューイーとの対話形式で表現した「ですます調」の文体にしているが、本書はインタビューイーの発言を所々入れつつ、筆者の視点で記述した「だ・である調」。どちらも同じ取材データが元になっているので、こうした書き方の違いも見ていただけたらと思う。

 また、このようなインタビュー企画をはじめたのには、もう1つ理由がある。それは、私が現在ライター業をしており、こうした企画を足がかりに、インタビューライターの道も開けやしないかと邪な想いだ。
 そんなわけで、ライターをお探しの方は、ご連絡いただけるとありがたい。

インタビューイー

  1. 星月夜(母@hoshitsuki315 娘@seknm02
  2. デイリーマザキ(@mazaki_oya
  3. 月の下で(@tukinositade
  4. 虎月堂(@book46462
  5. 粟根書房(@djbubble68
  6. ぽんつく文庫(@hanpenspy
  7. けんじ堂(@kenji_do2012

星月夜

 一箱古本市に出店している人の中には、夫婦や友人同士でユニットを組んでいるケースもある。しかし、親子で協力して参加という例は少なく、母と娘の一箱として活動されている星月夜さんは、そんなレアなユニットだ。

 出店時の選書は特定ジャンルに特化せず、ごった煮のようになりながらも、読んだ本を持って行く。そこには、本人たちの読書傾向も伺える部分があるようだ。ただし、売上として考えると現実は厳しい。
「絵本は定番の売れそうなものを入れて、あとはその時にハマってる、良さそうなものを選んでます。絵本は毎回用意するんで、星月夜は絵本を売ってるという認知はされてると思うんですが、一般書はジャンルがバラバラなものを持って行ってる状態ですね。買う人からすると、どんな本が並んでいるか一貫性がなさそうだし、売れ行きを勝率で考えると5割もなくて、3割行ったらいい方かなと」

デイリーマザキ

 デイリーマザキ。
 その字面を目にしたとき、あなたは何を想像するだろうか?

「驚かれることの多い名前ですよね。特別な由来があるわけじゃないんですが、いざ自分が一箱古本市に出店する状況になったとき『どうしよう?』ってなって、なんとなく付けちゃいました。でも、昔『デイリーヤマザキ』でバイトしてたことはあるんです。これは、あとから気付いたことで、偶然なんですが。古本市とかでは見ない名前なので、一発で覚えてもらうことが多いんです。だから、なんとなく付けた名前でしたけど、結果的にはこれで良かったのかなって、今となっては思います」

月の下で

 私が初めて月の下でさんにお会いしたのは、2018年に滋賀県彦根市にある護国神社で開催された一箱古本市「ウモレボン市」でのこと。割り当てられたスペースが近く、頒布物を購入した際に同じ京都の方だということが判明した。そして、この時が月の下でさんの初出店だった。
 出店に際して屋号を考えていると、かつての自分のことがどんどん思い出されたと語られた。

 子どもの頃は本を禁止されるのが罰になるほど本の世界に熱中し、学生時代には創作活動も楽しんでいたそうだが、社会人になってからはパタリと趣味を封印。「娯楽として本を読む意味はあるのか?」「それは必要なことなのか?」といった問いへの答えが出ず、楽しみとしての読書からは離れてしまった。

虎月堂

 本業では本を作る側の仕事をされているが、売る側の体験もしてみたいと、一箱古本市や貸し棚への出店をされている虎月堂さん。当企画でのnote掲載記事を書いた際は、かなり本格的な校正をいただき、非常に勉強になった。

 虎月堂さんが初めて一箱古本市に出店されたのは、2020年2月に奈良で開催された本のイベントである。ロゴの入ったスリップに値段を付けて販売する体験が面白く感じられ、以来、イベント出店や貸し棚書店での販売活動を続けることになる。そんな活動の中で虎月堂さんが思うのは、本を売ることの難しさと楽しさだ。

粟根書房

 書店をやってみたいと考えていたところに、棚を借りて本屋体験ができる「ふうせんかずら」と偶然出会った粟根書房さん。現在はならまちにある「ふうせんかずら」のほか、ブランチ大津京の「セルフブックス」にも出店されている。そして、将来的には故郷で書店開業をと考え、広島へと住居を移された。
 何かに導かれたような出会いと変化。その原点には、少年時代のある体験も大きく関わっているという。

 「ふうせんかずら」への出店から本を売る活動を始められた粟根書房さんだが、活動当初は「ばぶるの本屋」という屋号であった。しかし、将来的な書店開業を考えるにあたり、相応しい屋号をと思われたようだ。

「Twitterアカウントで『ばぶる』と名乗っていて、『ばぶる』がやってる本屋だから『ばぶるの本屋』でいいかと、安直な感じで始めたんです。でも、活動していくうちに、地元で本屋を開きたいと思うようになりまして、起業するならもっと“かっちりした名前”をと思ったんです」

ぽんつく文庫

 ヒトハコの活動をしている人のなかには、自分のお店を持っている人も居る。ヒトハコに出る前からお店を営んでいるケースもあれば、ヒトハコの経験から実店舗をやりたいと思い描き、実現させるケースもある。
 ぽんつく文庫さんも、一箱古本市と貸し棚への出店を経て、自分のお店も持たれるようになった人だ。

 ぽんつく文庫の屋号で、一箱古本市への出店を始められたのは、 2017年の11月から。始めたきっかけは、休職により気持ちが回復して、何かをやりたいと思えるようになってきた時期だったからとのこと。
 出店していく中で復職して仕事を続けるのは難しいと思うようになり、退職を決意する。そして、退職金を使って自分の店を始めようという考えに至った。

けんじ堂

 一箱古本市などで本を売る体験から、自らも同様のイベントを企画してみようと考える人もいる。京都市内の大学に勤めるけんじ堂さんは、一箱古本市への出店を経験後、学園祭での一箱古本市を企画・運営されてきた。

 南陀楼綾繁の著書『一箱古本市の歩きかた』を読み、「一箱古本市」に興味を持ったタイミングで、長岡天満宮で開催される「天神さんで一箱古本市」を知って、けんじ堂さんの活動がスタートする。
 ただし、第1回開催の折は都合により参加を見送ることとなり、第2回となる2012年5月開催の「天神さんで一箱古本市」にて初めて出店された。この時は、元同僚の方と合同で参加し、2人とも手探りの状態ながら準備を進められたという。

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