【試読】タヌキの長わずらい

――2022年11月某日、夜11時

私はある人物からの電話に出てしまった
正直、出なければ良かった
でも、何の意図があっての電話か、ハッキリしないのも落ち着かず
意を決して、スマートフォンの通話表示をタップした

そして、やっぱりというか、予想通りというか……
大した意図のない電話であった

相手は私と話せて満足そうだったが……

こっちは複雑な心情を混ぜっ返されてしまい
それから数日、仕事の効率が落ちてしまった

どういう関係の相手からの電話か
私が相手に抱いている感情は何か
そして今後の対応をどうすることにしたか

そのあたりを、ここに書き記しておく

三回の着信

私は現在、会社に勤めていない
紆余曲折の末、組織にいるのが向かないという結論に達した
そして現在は、フリーラーター? 文筆業? そんな感じの肩書きだ

自分の書いたものでお金をもらっているだなんて、すごい身分じゃないのと思う人も居るのかも知れない
だが、現実はそのように華やかではない

無論、こうした肩書きにあたる人のなかには、著名な作家やコラムニスト、放送作家などもある
でも、今の私はそんなたいそうな存在には届かない

著名人との繋がりもないし、大手出版社からお声がかかることもない
テレビ番組の制作者テロップに名を連ねることもない
自分の名前で書いた本が書店に並ぶこともない

ひっそりと慎ましく、どうにかこうにか死なない程度に生きている

前置きが長くなったが、そんな私のスマートフォンが、2022年7月に着信音を発した
最近はチャットツールでの連絡も主流になっているし、なかなか電話をかける・受けるという機会がない
驚きながら手に取ると、表示されているのは見覚えある番号
(ものぐさな性格もあって、自分からかける予定がない番号は、ほとんど登録していない)
そして、その番号は私を身構えさせ、さまざまな思いが瞬時に交錯した

電話の相手

さて、そろそろどんな相手からの電話であったのかを話しておこう
その着信に動揺し、ある意味では恐れ、ある意味では怒りを感じた相手
それは以前勤めていた職場の人物である
以降、この人物をレッサーパン太と表記させてもらう

前職の関係者であるならば、仕事がらみの連絡ではないのか?
何らかの引き継ぎ不足があって、確認のために電話をかけてきたのではないか?
そう思う方も居るであろう

しかし、最初の着信は2022年の7月
私が前職を辞したのは2021年の6月末

つまり、私が職場を去ってから丸1年は経過している

レッサーパン太氏とのあれこれ

では、私とレッサーパン太氏との関係はどのようなものなのかというと、なかなかひと言で表現するのが難しい
いや、端的にあらわすならば「前職の関係者」ということなのだが、個人的な感情も絡んでいて、それだけで済ませるには何かが足りない

レッサーパン太氏はある年、人事異動によって私が所属していた営業所へやってきた
人事異動は時々あるから、さして珍しい出来事ではない
けれど前例のないエリアをまたいでの異動で、大変注目されていた
そして、その注目はただの物珍しさから、圧倒的な営業成績へと移る

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